TBD Eyewear(ティービーディー アイウェア)とは?|設立背景・デザイン・イタリア製フレームの特徴
記事メイン画像:イタリア・カドーレの工房でアセテートフロントを加工する職人(TBD Eyewear公式「Craftsmanship」より)
TBD Eyewear(ティービーディー アイウェア)は、2015年にミラノで設立されたアイウェアブランドです。クラシックな眼鏡をイタリアの仕立て文化と結びつけ、現在はバイオアセテートを使ったフレームをカドーレの職人が手作業で仕上げています。
出発点は眼鏡メーカーではなく、メンズウェアと職人文化を紹介するブログでした。創業者Fabio Attanasio(ファビオ・アッタナシオ)は、読者が服と同じ感覚で選べる眼鏡を作ろうと考えます。最初の生産は21本。小さな企画が、WELTやCORDといった定番を持つブランドへ成長しました。
この記事では、共同創業者Andrea Viganò(アンドレア・ヴィガノ)との設立背景、デザインを担当する体制、カドーレでの製造工程を整理します。後半では、当店で取り扱うWELT、CRAN、CORDを例に、共通するディテールとモデルごとの魅力を見ていきます。
この記事でわかること
- TBD Eyewearが2015年に生まれた経緯
- Fabio AttanasioとAndrea Viganòの役割
- ミラノでの設計とカドーレでの製造
- バイオアセテート、リベット、色レンズの特徴
- WELT・CRAN・CORDの形と印象の違い
◎TBD Eyewearとは?|仕立て文化から生まれたアイウェア
TBDは、ブランドの前身となったThe Bespoke Dudesの頭文字です。The Bespoke Dudesは、Attanasioが2012年に始めたブログ。ナポリ、ミラノ、フィレンツェなどの仕立て屋や職人を訪ね、ジャケットの構造、生地、靴、ものづくりの背景を紹介していました。
その活動で培ったのは、クラシックな服を古い決まりとして扱うのではなく、現在の生活に合う形で伝える視点です。TBD Eyewearのフレームにも、この考え方が表れています。
FOUNDED
2015年3月
メンズウェアのブログから始まった、ミラノ発の独立系ブランド。
DESIGNED
イタリア・ミラノ
鉛筆のスケッチから技術図面、試作へ。形と寸法を細かく調整する。
HANDCRAFTED
イタリア・カドーレ
ドロミーティ山地にある眼鏡産地で、切削、研磨、組み立てを行う。
モデル名にも仕立ての語彙が使われます。Weltは縁飾りや靴のウェルト、Cordは畝のあるコード織り、Twillは綾織り、Lapelはジャケットの襟を意味します。名前を装飾に使うだけではなく、服と眼鏡を同じ装いの中で考えるブランドの出自を示しています。
◎2015年の設立背景|ブログの読者へ、作り手の見える眼鏡を
Attanasioは大学時代から度付き眼鏡を掛け、2012年ごろにはハニーカラーのサングラスを自身の定番にしていました。しかし、市場にあるクラシックなフレームは、形や色が自分の求めるバランスと少し違ったといいます。
同じころ、The Bespoke Dudesには仕立て服や手仕事に関心を持つ読者が集まっていました。そこでAttanasioは、イタリアの職人背景を持ち、ブログで伝えてきた価値観と揃う製品を自分たちで作ろうと考えます。
共同で動いたのがAndrea Viganòです。彼はMade in Italyの製品をオンラインで扱っていた起業家で、製造とデジタル販売をつなぐ役割を担いました。二人はカドーレで小ロットに対応する作り手を探し、最初の注文を実現します。
FABIO ATTANASIO
創業者/現在の中心人物
ナポリ出身。The Bespoke Dudesの創設者。クラシックな紳士服、色、プロポーションをコレクションの発想源にする。
ANDREA VIGANÒ
共同創業者
Made in Italyとデジタル事業の経験を持ち、ブランドの立ち上げと海外展開を支えた。2025年の資本再編で持分を譲渡。
2025年にはViganòが持分を譲渡し、Attanasioが単独代表に就任しました。したがって、設立時の背景を語るときは二人の共同創業、現在のブランドを語るときはAttanasioを中心に見ると分かりやすくなります。
◎デザイナーは誰?|個人名より、スケッチと試作を重ねる体制
TBD Eyewearは、特定の一人を「デザイナー」として前面に出していません。Attanasioがクラシックな眼鏡、映画、紳士服から着想を得て鉛筆で形を描き、デザインチームが技術図面へ整えます。その後、カドーレの職人と試作し、寸法を調整して量産へ進みます。
Attanasioは過去のインタビューで、試作では0.25mmほどの差が印象を変えると説明しています。TBD Eyewearの丸型は、真円に近づければ良いわけではありません。眉側の線、ブリッジの高さ、外側の張り、リムの太さを少しずつ動かし、顔に置いたときのバランスを決めます。
創業者がイメージを示し、デザイナーが構造へ落とし、職人が素材を削る。この三段階がTBD Eyewearの設計体制です。ファッションデザイナーの署名よりも、企画と製造の距離が近いことを重視しています。

WELTをフロント、テンプル、蝶番、ねじに分けた構成。細いテンプル芯と横長リベットも確認できます(TBD Eyewear公式「Our Story」より)
◎カドーレで作る理由|眼鏡産地の手仕事を、短い供給網でつなぐ

製造地のカドーレ渓谷。イタリア北東部、ドロミーティ山地にある歴史的な眼鏡産地です(TBD Eyewear公式「Craftsmanship」より)
カドーレは、イタリア北東部ヴェネト州の山間にある眼鏡産地です。TBD Eyewearはミラノで設計し、フレームの製造をこの地域の家族経営の工房と行っています。
工程は、バイオアセテートの板をフロントとテンプル用に切り分けるところから始まります。切削後のフレームは、樺やブナの小片、軽石、研磨油と一緒にタンブリングし、角を滑らかにして艶を出します。
リベットは1930年代に遡る型を使うヴェネト州の小規模メーカーが製作。工房で一本ずつ差し込み、蝶番も手作業で固定します。仕上げの手数が多いのは、工芸的な雰囲気を演出するためではありません。細いテンプルを安定して開閉させ、フロントの曲線を崩さず、長く使える状態に整えるためです。
◎TBD Eyewearに共通する6つの特徴
1|クラシックを、輪郭と寸法で整える
WELTのパント、CORDのスクエア、CRANの大きなラウンドなど、基本形は眼鏡史に馴染みのあるものです。そこへ狭めの横幅、やや広いブリッジ、抑えたリム厚を組み合わせます。
古い眼鏡の特徴を全部強く出さず、日常の服に収まりやすい寸法へ調整する。この加減が、TBD Eyewearの端正さにつながっています。
2|キーホールブリッジで、中央に表情を作る
主要なアセテートモデルでは、鍵穴のような輪郭のキーホールブリッジがよく使われます。鼻の上に小さな空間ができるため、丸いレンズでも中央が間延びしません。フロントを軽く見せる効果もあります。
3|蝶ネクタイ形のリベットを、小さなサインにする
フロント両端には、中央を絞った横長のリベットがあります。蝶ネクタイを思わせる輪郭で、ブランド名を大きく入れずにTBD Eyewearらしさを示します。
近くで見ると金具ですが、少し離れると小さな点に見えます。クラシックな形を崩さず、顔の外側へ視線を導くディテールです。
4|バイオアセテートを、現在の標準素材にする
現在の主要フレームには、綿と木材パルプ由来のセルロースに植物由来の可塑剤を組み合わせたバイオアセテートを使用しています。TBD Eyewearは2020年に最初のコレクションを発表し、段階的に通常のアセテートから切り替えました。
サステナビリティは、素材名だけで判断できるものではありません。同ブランドはフレームに加え、一部に天然由来炭素を含むサンレンズ、再生綿と再生PETを使うケース、FSC認証の再生紙ボックスまで対象を広げています。ここでは、環境負荷を減らすために素材と包装を更新し続けている点を特徴として挙げます。
5|ハバナ、シャンパン、色レンズを低い彩度で組み合わせる
黒だけでなく、赤みのあるハバナ、透明感のあるシャンパン、ハニー、オーシャンなどが継続して使われます。レンズもボトルグリーン、グレー、タバコ、ブルー、オレンジと幅があります。
色は強くても、フレームの線は整理されています。透明色ではリムの厚みが軽く見え、濃いハバナでは輪郭が締まる。フレームとレンズの組み合わせで、同じ型の印象を細かく変えています。
6|細いテンプルと手作業の蝶番で、横顔を軽くする
正面には形を残しながら、テンプルは比較的細く仕上げます。横から見たときに眼鏡の存在感が急に重くならず、ジャケットにもカットソーにも合わせやすいバランスです。
透明な生地では、内部の金属芯が見えます。外側のリベット、内側の芯、蝶番の収まりまで観察すると、TBD Eyewearが線の細さと構造の安定を両立させようとしていることが分かります。

カドーレで撮影されたWELT Eco Honey。明るいフレームと青いジャケットを合わせても、レンズ形がクラシックなので落ち着いて見えます(TBD Eyewear公式Journalより)
◎当店で見る3モデル|形の違いからブランドの魅力を読む
当店の取り扱いでは、WELT、CRAN、CORDがTBD Eyewearの考え方をよく伝えます。いずれもクラシックな形、キーホールブリッジ、横長リベット、色レンズを共有しています。それでも掛けた印象はかなり違います。
WELT
コンパクトなパント
丸みと小さな角を併せ持つ、ブランドの基準点。
CRAN
ゆとりのあるラウンド
大きな円とバイカラーで、柔らかさを前に出す。
CORD
小ぶりなスクエア
直線と丸い角で、装いを端正に引き締める。
WELT|丸いだけでは終わらない、ブランドの定番

WELT col.Eco Dark Havana / Grey。丸いレンズに、わずかに張った上辺と外側の角を加えています(DOWNTOWNの商品ページ)
WELTはブランドを代表するモデルです。2025年の10周年コレクションでもCORDとともに選ばれ、公式がアイコンとして扱っています。
レンズは丸いものの、上辺は完全な円ではありません。ブロウの中央が少し下がり、外側へ向かって緩やかに上がります。両端には短い直線が残るため、柔らかさの中に締まりがあります。
46mmのレンズ幅に23mmのブリッジを合わせた、横に広がりすぎない設計です。Dark Havana / Greyはフレームとレンズの明度差が小さく、形が静かに見えます。Havana / Blueではレンズの色が前に出るため、同じ輪郭でも軽快です。

キーホールブリッジと横長リベット。べっこう柄の明るい部分が、濃いフロントに奥行きを加えます(DOWNTOWN撮影)
ブランドを初めて見るなら、WELTは分かりやすい基準です。主張を抑えた丸型ですが、ブリッジとリベットに目を向けると、仕立て文化から来た整った細部が見えてきます。
CRAN|大きな円を、細いリムとバイカラーで軽く見せる

CRAN col.Eco Bicolor / Tobacco。シャンパン色のフロントに、ブラウンのテンプルとタバコレンズを合わせています(DOWNTOWNの商品ページ)
CRANはWELTよりレンズが大きく、天地も深いラウンドです。49mmのレンズ幅に対してブリッジは19mm。二つの円が中央へ寄るため、横幅を増やしすぎずにレンズ面積を確保しています。
当店のEco Bicolor / Tobaccoは、フロントが淡いシャンパン、テンプルがクリアブラウンです。正面は軽く、横を向くと色が深くなる。服で身頃と裏地、ジャケットとパンツの色を調整するように、見る角度で色の比重が変わります。

淡いフロントからクリアブラウンのテンプルへ。内部の芯金とリベットが透け、構造も色の一部になります(DOWNTOWN撮影)
輪郭は大きめですが、リムを厚くしすぎず、透明色を使うことで圧迫感を抑えています。丸型らしい柔らかさを楽しみながら、色と構造の細部も見たい人に向く一本です。
CORD|小ぶりなスクエアに、シャンパンとグリーンの余白

CORD col.Eco Champagne / Bottle Green。直線を残した上辺と、丸く整えた下辺の対比が特徴です(DOWNTOWNの商品ページ)
CORDは小ぶりなスクエアです。上辺とブリッジには直線を残し、レンズ下部と外側の角を丸めています。四角いフレームの知的な印象はありながら、表情が硬くなりすぎません。
44mmのレンズ幅と23mmのブリッジによるコンパクトな比率は、ヴィンテージ眼鏡に近い密度です。一方、Eco Champagneの透明感とBottle Greenレンズが、古さを強く感じさせない色調に整えています。
WELTが丸みと小さな角の均衡、CRANが大きな円の軽さを見せるモデルなら、CORDは直線の使い方が主役です。ジャケットの襟線やシャツの前立てと合わせたとき、輪郭が自然に馴染みます。
3モデルを並べると見えること
ブランドの個性は、奇抜な外形ではなく数mmの差にあります。WELTは46□23、CRANは49□19、CORDは44□23。レンズ幅とブリッジの配分を変え、丸さ、余白、密度を作り分けています。写真では似て見えるモデルほど、掛けたときの目の位置と眉との距離に違いが出ます。
◎まとめ|クラシックな眼鏡を、現在の素材と産地で整える
TBD Eyewearは、2015年にFabio AttanasioとAndrea Viganòが設立しました。前身は2012年に始まったThe Bespoke Dudes。イタリアの仕立て屋や職人を紹介してきた活動から、読者が服と一緒に楽しめる眼鏡が生まれました。
デザインは、Attanasioのスケッチ、チームの技術図面、カドーレの職人による試作で進みます。バイオアセテートの切削と研磨、手作業で取り付けるリベットと蝶番、フレームと色レンズの組み合わせが、現在の製品に共通する特徴です。
WELT、CRAN、CORDはいずれもクラシックな型ですが、寸法と線の置き方は異なります。正面の形だけで決めず、ブリッジの幅、リベット、テンプルの細さ、透明色の奥に見える芯まで見ると、ブランドの丁寧さがよく分かります。
主な参考資料
TBD Eyewear公式 Our Story / TBD Eyewear公式 Craftsmanship / TBD Eyewear公式 Sustainability / TBD Eyewear公式 FAQ / TBD Eyewear公式 10 Years Anniversary
The Bespoke Dudes公式 About / The Gentleman's Journal|Fabio Attanasio interview / Pitti Immagine|TBD Eyewear Brand Story / Pambianco News|10周年インタビュー / Pambianco News|2025年の資本再編