JACQUES MARIE MAGEのサングラスを掛けたモデルのモノクロLOOK

JACQUES MARIE MAGE(ジャック・マリー・マージュ)徹底解説|なぜ世界中の眼鏡好きを魅了するのか

2015年に発表されたJACQUES MARIE MAGE初期コレクションのLOOK

2015年、ファーストコレクション発表時のLOOK(JMM公式「La Maison」より)

眼鏡を見慣れた人であっても、初めてJACQUES MARIE MAGE(ジャック・マリー・マージュ。以下JMM)を手に取った瞬間は、思わず見入ってしまうのではないでしょうか。

肉厚なアセテート。立体的なカッティング。貴金属を思わせる装飾。そして、手にしたときに伝わる独特の重厚感。

一見すると力強く、かなり個性的。それなのに実際に掛けると、単なる派手さでは終わらず、顔まわりに不思議な品格が残ります。この「強さと洗練の共存」こそ、JMMが世界中のアイウェアファンを惹きつけている大きな理由です。

この記事では、以前TOKYO MEGANE JUNKでお届けしたブランド解説をもとに、創設者ジェローム・マージュの人物像から限定生産、日本の職人技、象徴的なディテール、コラボレーションまで、その魅力を徹底的に紐解きます。

この記事でわかること

  • 創設者Jérôme Mageの経歴と、JMM誕生までの歩み
  • 限定生産と日本の職人技が生む、造形と価値
  • アローヘッドや丁番などのディテールと、文化的背景

◎JACQUES MARIE MAGEとは?

JMMは、フランス出身のデザイナー、ジェローム・ジャック・マリー・マージュ(Jérôme Jacques Marie Mage)がロサンゼルスで創設したラグジュアリーアイウェアブランドです。

ブランドが創設されたのは2014年。数年に及ぶ開発を経て、2015年春に最初のコレクションを発表しました。デザインの拠点はロサンゼルスに置きながら、フレームは日本を中心とした高い技術を持つ工房で、少量ずつ丁寧に作られています。

ジェロームの着想源は、眼鏡だけにとどまりません。フランス第一帝政、アール・デコ、アメリカ西部の文化、映画、音楽、写真、建築、モーターカルチャーなど、時代も地域も異なる文化を横断しながら、一つのフレームへと落とし込んでいます。

だからJMMの眼鏡には、ヴィンテージの単なる復刻とも、現代的なモード一辺倒とも違う空気があります。過去の意匠を尊重しながら、今の顔に似合うスケールと緊張感へ再構築しているのです。

◎創設者Jérôme Mageとは|「線」と物語をデザインする人物

JACQUES MARIE MAGE創設者兼クリエイティブディレクターのジェローム・マージュ

創設者兼クリエイティブディレクター、Jérôme Mage(JMM公式「La Maison」より)

原点は、コミックの「きれいな線」

ジェローム・マージュは、フランス中部オーヴェルニュ地方のクレルモン=フェランで育ちました。幼い頃に夢中で描いていたのは、X-MENやスパイダーマンなどのアメリカンコミック。そのときに磨いた「無駄のない、きれいな線を引く感覚」が、後のアイウェアデザインにも生きていると本人は振り返っています。

パリからロサンゼルスへ

15歳になると、アートとデザインを学ぶため単身パリへ。プロダクトデザインの教育を受けた後、21歳でロサンゼルスへ渡りました。当時のカリフォルニアは、スノーボード、スケートボード、モトクロスといったアクションスポーツ文化が急速に広がっていた時代です。フランスとは異なる自由な空気のなかで、ジェロームはストリートアイウェアブランドSPYのデザインに携わり、サングラスをはじめとするプロダクトの経験を積みました。

スポーツ、量産設計、時計で磨いた視点

2001年には自身のデザインスタジオを設立。QuiksilverやBurtonなどのブランドをクライアントに、ウェア、ゴーグル、アイウェア、時計まで幅広く手掛けます。ファッションだけでなく、激しい動きに耐える機能や量産の条件まで考える仕事を通じて、造形と実用性を一つにする力を身につけていきました。

2009年には、アラン・マリック、ジョセフ・シャテルとともにフランスの時計ブランドMARCH LA.Bを共同創業し、クリエイティブディレクターとしてデザインを担当。ロサンゼルスとビアリッツ、1970年代の造形、フランスらしい品格を現代の時計へ落とし込む経験は、現在のJMMにも通じています。MARCH LA.Bは約2年の開発を経て、2011年に最初の時計を発表しました。

自分が本当に作りたい眼鏡へ

キャリアを重ねる一方で、ジェロームは次第に、利益や効率を優先するプロジェクトだけでは自分が本当に作りたいものを表現できないと感じるようになります。好きだった眼鏡と靴のうち、長くデザインを続けてきたアイウェアを選び、2013年から開発を開始。2014年にJMMを創設し、2015年春に最初のコレクションを世に送り出しました。

コミックから学んだ線、アクションスポーツの機能性、時計の精密さ、フランスの歴史と装飾、ロサンゼルスの自由な文化、そして日本の職人技。JMMの眼鏡が一つの様式に収まらないのは、ジェローム自身の歩みが、異なる文化とプロダクトを横断してきたからです。

経歴参考:HOOK「INTERVIEW — JEROME MAGE」MARCH LA.B公式ブランドヒストリー

◎JMMの魅力1|すべてが「限定生産」という特別感

JMMを語るうえで、最初に外せないのが限定生産です。

多くのモデルはカラーごとに生産数があらかじめ決められ、テンプルの内側には「何本中の何本か」を示すシリアルナンバーが刻まれています。生産数は数百本規模のものが中心ですが、特別なコレクションでは数十本、さらに少ないエディションが作られることもあります。

同じモデル名が別のカラーや仕様で再登場することはあっても、そのエディションとまったく同じ一本が、いつでも手に入るわけではありません。気に入ったシェイプ、カラー、生産番号との出会いそのものが一期一会です。

この希少性は、ただ所有欲を刺激するための仕掛けではありません。大量生産を前提にしないからこそ、複雑なカッティングや独自の金属パーツ、手間のかかる仕上げを採用できる。限定生産という方法そのものが、JMMのデザインを成立させているのです。

付属する証明書にもエディションナンバーが記され、職人の署名が入る仕様もあります。「商品」ではなく、背景を持つ「コレクティブル」として届ける姿勢が、細部まで一貫しています。

◎JMMの魅力2|ロサンゼルスの発想を、日本の職人技で形にする

大胆な造形に目を奪われがちなJMMですが、その魅力を支えているのは極めて緻密なものづくりです。

公式には、一本の眼鏡が完成するまでに約300もの工程を経て、100人近い職人の技術が関わると説明されています。金型の製作、アセテートの切削、金属パーツの加工、レーザー溶接、組み立て、研磨。どこか一工程だけを豪華にするのではなく、完成までのすべてを高い水準で積み重ねています。

2017年には、日本の精密な金属加工技術を生かしたチタン製アイウェアも発表。肉厚なアセテートだけでなく、素材ごとに異なる構造美を追求してきたこともJMMの特徴です。

2017年のJACQUES MARIE MAGEチタンコレクションを着用したモデル

2017年に発表されたチタン製アイウェアのLOOK(JMM公式「La Maison」より)

実際にフレームを手に取ると、その違いは重量だけではなく、面の美しさとして伝わってきます。厚い生地から削り出したエッジは立体的でありながら荒々しくなく、光を受ける角度によって表情が変わる。テンプルを開閉したときにも、密度の高い作りが感じられます。

JMMが評価されているのは、「太くて迫力のある眼鏡」を作ったからだけではありません。大胆なデザインを、工芸品のような精度で完成させた。その両立にこそ価値があります。

◎JMMの魅力3|ひと目でJMMとわかる、象徴的なディテール

JMMのフレームは、遠目にはシルエットで存在感を放ち、近くで見るほど細部に驚きがあります。代表的な意匠を見ていきましょう。

矢尻をかたどった「アローヘッド」

フロントの智元に配される矢尻型のピンは、JMMを象徴するディテールです。ジェロームが強く惹かれてきたアメリカ西部の文化を思わせるモチーフで、モデルによってスターリングシルバーや貴金属仕上げなどが用いられます。

小さなパーツですが、光を受けたときの輝きが肉厚なアセテートに緊張感を与え、フレーム全体を引き締めます。単なるロゴの代わりではなく、ブランドの文化的背景まで伝える印です。

JACQUES MARIE MAGE ZEPHIRINのフロントに配されたアローヘッドピン

ZEPHIRIN “VENOM”のフロント。智元に輝くアローヘッドが、肉厚なアセテートを引き締めます(JMM公式商品ページより)

乗馬の拍車を思わせる「スパーシェイプ・リベット」

テンプル付近に並ぶギザギザとしたリベットは、乗馬用の拍車を思わせるJMM独自の造形です。装飾として美しいだけでなく、金属パーツを固定する構造の一部でもあります。

「機能がそのまま装飾になる」という考え方は、JMMのディテールに共通しています。見せるためだけの飾りではないからこそ、重厚であっても嫌味に見えません。

モデルごとに設計される多枚丁番

JMMでは5枚、7枚、9枚など、モデルのボリュームや構造に合わせたカスタム丁番が採用されています。厚いフロントとテンプルを確実につなぎ、安定した開閉を支える重要な部分です。

丁番やワイヤーコアには繊細なヘアライン彫金が施されることもあり、掛けてしまえば見えにくい場所にまで手が入っています。ブランドの本気は、むしろこうした裏側に表れます。

JACQUES MARIE MAGE ANNの多枚丁番と内側のカメオを写したマクロ写真

ANNの内側を撮影した当店のマクロ写真。多枚丁番、三つのリベット、カメオ型のメタルパーツを一度に確認できます(ANNの商品ページ

10mm厚のアセテートと立体的な削り出し

JMMらしいボリューム感を生むのが、代表的なモデルに使われる10mm厚のセルロースアセテートです。

ただ分厚い板をそのまま眼鏡にしているわけではありません。厚い生地を多方向から削り、稜線や段差、面の切り替えを作ることで、重量感と立体感をコントロールしています。正面、斜め、横と、見る角度によって印象が変わるのはそのためです。

2015年に初期コレクションを見たとき、この厚みが市場に受け入れられるのかと驚いた方も多かったはずです。しかし、その圧倒的な格好よさは眼鏡のボリューム表現に新しい基準を作りました。現在では肉厚なフレームも珍しくありませんが、JMMには先駆者ならではの完成度があります。

JACQUES MARIE MAGE ANNの肉厚なアセテートとベベルカットを写したマクロ写真

塊から削り出したようなANNのフロント。厚みを残す場所と落とす場所を分けることで、力強さと滑らかな陰影を両立しています(ANNの商品ページ

カメオ、ワイヤーコア、内側の刻印

テンプル内側の立体的なカメオ風ロゴ、透けて見えるワイヤーコアの彫金、フォイルスタンプによる刻印。JMMは、正面からは見えない場所にも物語を仕込みます。

フランス帝政やアール・デコへの関心、アメリカ西部への憧憬、日本の精密なものづくり。異なる文化的要素が、一本の中で過剰にならず共存しているのです。

JACQUES MARIE MAGE ANNのテンプルから透ける彫金入りワイヤーコアのマクロ写真

透明感のあるアセテートから現れる、ANNの彫金入りワイヤーコア。当店の商品写真だからこそ、実物の奥行きと金属の仕上げまで確認できます(ANNの商品ページ

◎JMMの魅力4|付属品まで含めて一つの作品

JMMの徹底ぶりは、眼鏡本体だけでは終わりません。

イタリアで作られるレザーケース、シルク生地で覆われたボックス、大判のクリーニングクロス、活版印刷の証明書など、箱を開ける体験までデザインされています。コレクションやモデルに合わせてケースやクロスの意匠が変わることもあります。

通常、ケースのような付属品は、ある程度まとまった数量を作ることでコストを抑えます。それを少量生産のフレームごとに作り分けるのは、効率だけを考えれば難しいことです。それでも世界観を崩さないために手間を惜しまない。この姿勢が、JMMを単なる高級眼鏡ではなく「所有する喜びのあるプロダクト」にしています。

特別なエディションでは、冊子、レコード、オリジナルアートを使ったクロスなどが収められることもあります。時計やジュエリーを開封するときのような高揚感がある、という表現がよく似合います。

◎JMMの魅力5|映画、音楽、アートを眼鏡にするコラボレーション

JMMは、コラボレーションの相手と方法も独創的です。

映画監督スタンリー・キューブリック、俳優で写真家でもあったデニス・ホッパー、ジャズレーベルのBLUE NOTE、ロックバンドのTHE VELVET UNDERGROUND。さらに、作家、ミュージシャン、アーティスト、レーサーなど、協業相手は幅広い分野に及びます。

スタンリー・キューブリックの作品世界と本人像を再解釈したJACQUES MARIE MAGEのコレクションLOOK

THE STANLEY KUBRICK COLLECTION。映画の登場人物とキューブリック本人のアイウェアを、JMMの造形で読み替えたコレクション(JMM公式特設ページより)

重要なのは、有名人の名前を冠するだけではないこと。その人物が実際に愛用した眼鏡、作品の色彩、活動した時代の空気、アーカイブに残る写真まで読み解き、フレームのシェイプやカラー、付属品へ落とし込んでいます。

JMMにとってコラボレーションは話題作りではなく、文化を別の形で語り直す編集作業です。だからコラボモデルを知らずに見ても一本の眼鏡として完成しており、背景を知ればさらに深く楽しめます。

JACQUES MARIE MAGEとHopper Goodsの2016年公式ビジュアル

2016年のHopper Goodsとの取り組み。デニス・ホッパーが残した文化的イメージを、アイウェアとビジュアルの両面から再編集しました(JMM公式「La Maison」より)

◎JMMの魅力6|眼鏡の外側へ向けられた視野

JMMの世界観を語るうえで、自然環境や文化への支援も見逃せません。

2020年には、イエローストーン国立公園の公式非営利パートナーであるYellowstone Foreverと協働するコレクションを開始。公園と野生動物を次世代へ残すための活動を支援してきました。特にオオカミは、JMMのブランドストーリーとも深く結びついた存在です。

Yellowstone Foreverとの協働から生まれたJACQUES MARIE MAGEのCOUGARサングラス

Yellowstone Foreverとの協働から生まれたCOUGAR。自然の色彩を映したプロダクトと、保全活動への支援を一つのコレクションに結びつけています(JMM公式「Yellowstone VI」より)

また、アメリカ先住民のアーティストとの協業や、伝統文化を守るコミュニティへの支援にも取り組んでいます。

好きな文化から表面的な意匠だけを借りるのではなく、敬意を示し、その未来へ資源を還元する。こうした姿勢まで含めて、JMMが考える現代のラグジュアリーなのだと思います。

◎JMMはなぜ高価なのか

JMMを検討するとき、多くの方が一度は価格に驚くはずです。

しかし、その価格を構成しているものを一つずつ見ると、単にブランド名へ支払う眼鏡ではないことがわかります。

  • 少量生産を前提とした複雑な設計
  • 厚いアセテートから生み出す立体的な切削と研磨
  • 独自に製作される金属パーツや丁番
  • 約300工程、100人近い職人が関わる生産背景
  • シリアルナンバーと証明書
  • モデルごとに作り込まれるケースや付属品
  • 映画、音楽、歴史、工芸を横断するリサーチと表現

これらが一本の中に積み重なっています。

安価な眼鏡と同じ尺度で比べれば、確かに高価です。けれども、ジュエリーや機械式時計、工芸品のように、作り手の技術と物語を長く楽しむプロダクトとして考えると、その価格の見え方は変わってきます。

JMMは「何本も気軽に買い足す」よりも、「生涯で出会いたい一本」として選ぶ価値のある眼鏡です。

◎まとめ|JMMは、眼鏡という形をした“現代の工芸品”

JACQUES MARIE MAGEが世界中で支持される理由は、単に希少だからでも、太いフレームが格好いいからでもありません。

ロサンゼルスで生まれる大胆な発想。日本を中心とする職人たちの精密な技術。歴史、映画、音楽、アートへの深い敬意。そして、限定生産から付属品、社会活動まで貫かれた世界観。そのすべてが一本の眼鏡に凝縮されています。

強いのに、品がある。新しいのに、どこか懐かしい。遠くから見てもJMMらしく、近づくほど新しい発見がある。

もし気になる一本と出会ったら、ぜひ実際に手に取り、掛けてみてください。写真では伝わりきらない面の美しさ、丁番の密度、顔に乗せたときの独特の高揚感まで含めて、JMMというブランドの本当の魅力が見えてくるはずです。

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